建築士法による業務報酬基準

<建築士法による業務報酬基準>

建築士は設計というサービスを提供して報酬を得るのですが,設計業務の対価となる報酬はどのように算出されるのでしょうか。

設計する建物の規模の違い,難易度の違いがありますから簡単にいくらと言えるものではありません。そもそも設計業務の値段は,依頼者と依頼を受ける設計者との間で決まるもので,デザイン的能力が高く社会的に認められている設計者であれば高い報酬を要求し依頼する側も高い設計費用を納得して支払うと思いますが,駆け出しの設計者であれば低い金額でも受注せざるを得ない場合もあります。

したがって,設計費用をいくらにするかは,「設計する建物の規模,難易度,デザイン性の要求度などを勘案して依頼者と受注者との関係で決定する」というのが答えなのですけど,一応,設計費用を算出する手法はあります。それが,建築士法による業務報酬基準です。

この業務報酬基準が今の社会においてどこまで使用されているのかは私は知りませんけど,国が示したものですから「標準的なもの」としての価値はあるはずです。高い,安いと言っても,標準的なものがあるからそう言えるのです。また,公共発注であれば,基本的にこの手法で算出していますから,入札時の応札金額の参考になります。


建築士の主な業務である,設計と工事監理の業務報酬として標準的な額の算出方法が,建築士法で定められています。建築士法第25条に,

建築士法第25条 国土交通大臣は、中央建築士審査会の同意を得て、建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準を定め、これを勧告することができる。

とされ,この勧告に基づき平成21年国土交通省告示第15号として出しています。

建築士法第25条の規定に基づき,建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる基準(H21告示第15号)

この業務報酬基準については,「一般社団法人 新・建築士制度普及協会のHP」にわかりやすく解説されています。

新しい建築士制度,業務報酬基準

   └「業務報酬基準パンフレット

   └「業務報酬基準・設計積算基準パンフレット

   └「建築主向けリーフレット

   └「人件費の考え方

   └「工事監理のガイドライン

※ 業務報酬の解説としては,「新・建築士制度普及協会」から「実務者のための新しい業務報酬基準 講習会テキスト(第3版)」が出ています。これはネット上で販売されているものですので,ただで閲覧することはできません。


上の告示と普及協会のHPを読めばわかることなのですが,私の視点で少しだけ解説します。

この告示で算出できる業務報酬は,設計業務だけではありません。

  1. 設計業務
  2. 工事監理業務
  3. 建築工事契約に関する事務
  4. 建築工事の指導監督の業務

の4種類です。

1.と2.が何であるかは説明するまでもないでしょう。3.の「建築工事契約に関する事務」は,この告示の「別添一」の「2工事監理に関する標準業務およびその他の標準業務」の「二その他の標準業務」に列記された業務のことを言うのだと思います。4.の「建築工事の指導監督業務」は,この告示内で解説もされていなければ,その報酬額の算出方法も示されていないように思います。


上の告示で「業務報酬金額の算出方法を定めている」とは言っても,原則部分では,

「業務報酬」=「直接人件費」+「直接経費」+「間接経費」+「特別経費」+「技術料等経費」+「消費税相当額」

として,算出するということが書いてあるだけで,その中の「直接人件費」の算出方法を数式で規定しているわけではありません。

ただし,この告示内に「略算方法による算定」というものがあって,これを利用すれば,「直接人件費」が算出でき,「間接経費」+「特別経費」は,「直接人件費」と同額とすることが示されており,あとは,「直接経費」と「技術料等経費」を加えれば報酬額が算出できるようになっています。


上記の「略算方法による算定」による「直接人件費」の算出は次のようになっています。

この告示の別添二の建築物の用途に応じて,別添三で述べ床面積に応じて「標準業務時間数」が示されているので,これに1時間あたりの人件費を乗じることです。

つまり,設計しようとする建築物の用途を別添二の用途に当てはめて,設計する延べ床面積で別添三に当てはめれば,直接人件費が算出できることになります。

この算出で用いる「1時間あたりの人件費」をいくらにするのかは,この告示では規定されていませんが,「別添三の時間数は,一級建築士として2年の実務経験を有する者が業務を行うために必要な時間数」であることが記されていますから,そういう人の1時間あたりの人件費を用いるという意味です。

ならば,「それはいくらなんだ」「どうやって調べるんだ」と聞きたくなりますが,告示内には,規定されていません。解説ならこちら「人件費の考え方」にあります。

ひとつ,この「略算方法による算定」で注意しなければいけないのは,算出できるのは,別添三の表にある面積の範囲内に限られていることです。例えば,車庫などの物流施設では,算出できる床面積の最低は500㎡で最高は2万㎡です。

<官庁施設の設計業務等積算基準>

実は,業務報酬金額の算出方法は,上の告示による方法の他にもうひとつあります。それが,「官庁施設の設計業務等積算基準」です。私は,告示を写してこの積算基準を作ったのだと思っていましたが,積算基準の方がきめ細かいです。この積算基準は,国土交通省のHPで見ることができます。

官庁施設の設計業務等積算基準平成28年2月

   └「官庁施設の設計業務等積算要領平成28年2月

  この積算基準では,人件費の金額をどうするかの定めがありますし,延べ面積の適用範囲が限定されていませんし,改修工事の場合は延べ面積ではなく図面枚数で算出できるようになっているなど,告示よりも具体的に規定されています。一方で戸建て住宅の設計費は算出できません。


この積算基準の「積算要領」では,人件費の金額は次のように定めています。

直接人件費の単価は,国土交通省で公表している『設計業務委託等技術者単価』における『技師C』の単価を用いることができるものとする

平成28年度のこの資料によれば,「技師C」の金額は,29,900円です。これは1日の金額ですから,1時間当たりに直すために,8で割ります。


「官庁施設の設計業務等の積算基準」では,業務時間数を面積に対する関数で規定しています。面積を入れて算出される業務時間数は,告示の表の数値とほぼ一致しています。そういう意味で,積算基準と告示とは整合がとれています。


「官庁施設の設計業務等積算基準」のもうひとつの特徴は,改修工事の場合に図面枚数による報酬金額算出方法を規定していることです。この算出方法は,業務報酬基準の告示にはありません。

図面枚数による報酬金額の算出方法は,「官庁施設の設計業務等積算基準」の下にある「官庁施設の設計業務等積算要領」の中にあります。その中の,「第2章 業務人・時間数の算定方法」の「2 設計にかかる業務に関する算定方法2(図面目録に基づく算定方法)」です。

この算出方法は,想定する改修工事費からその金額に相当する床面積を算出(その式がある)して,その床面積で業務時間を算出して1枚あたりの業務時間を算出するものです。したがって,改修工事費が大きくて,図面枚数が多いほど報酬金額が高く算出されますし,建物用途の類別も適用されます。

この算出において,「算定係数1~4」があって,これは変動する値であるとして毎年更新されています。現在(2016/6/1)の係数は,これです。

官庁施設の設計業務等積算要領 第2章3.2(3)における算定係数

注意:図面枚数は,A1判での枚数であることが規定されています。A2判ならどうするのかは規定されていませんが,常識的に,A2判2枚でA1判1枚に換算することになるでしょう。




積算の関連情報
工事費積算

└〈数量積算の注意点

建築士法による業務報酬基準
地盤調査の積算(地盤調査費用の算出)

設計金額

設計報酬金額は,予想される工事費の何%として概算する方法も用いられているようです。何%が,1%なのか,5%なのか,10%なのか,私は知りません。社会的に認められている建築士であれば高いでしょうし,普通の建築士であればそれよりは低いでしょう。また,この%は,数千万円の工事費の設計と億単位の工事費とでは%が違います。

業務報酬基準の追加

平成27年5月25日に新しい告示が制定されて,耐震診断業務と補強設計業務の報酬基準が追加されました。技術的助言と告示は「一般社団法人日本建築事務所協会連合会」のHP「耐震診断及び耐震改修に係る業務報酬基準の技術的助言が出されました」で見ることができます。

※ 国の技術者単価は毎年度ごとに改訂されるものですが,26年度は年度になる前の26年2月に改定されました。27年度も27年2月でした。28年度は28年1月「設計業務委託等技術者単価」でした。資材・技術者の高騰が影響しています。 技師C=29,900円(28年度)



このページの公開年月日:2012年6月29日

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